ツッコミ

三浦慎吾さんの大著「動物と人間」、帰宅後に少しずつ読んでいます。動物(特に哺乳類)と人の関係史を概観するのに面白いけれど、ちょっと粗も気になりますね。特に聖書に関するところは、自分が親しんでいるだけにいちいち引っかかってしまいます。例えばローマ時代のコショウの値段(1ポンド4〜15デナリウス)を見積もった箇所(190ページ)では、「黙示録」の文章を引き合いに出して「小麦が1.1リットルで1デナリウス」であるから「目が飛び出るほどの高級品ではない」と書いています。でも、1デナリウスが労働者の日当であることは聖書読みには常識なので(「黙示録」は飢饉の描写であり、「1日働いても腹を満たすだけの穀物が買えない」ことを表す)、高級なコショウは1ポンド(ローマ時代のポンド=リーブラは現在の1ポンドよりも少なく、約330g)で月給の半分が飛ぶほど高価なのです(ちなみにこちらのサイトによると、当時の小麦1キロの価格は2アス=1/8デナリウス)。それから受難節の肉断ち中に魚を食べても良い理由として「レビ記」が挙げられていますが(231ページ)、旧約聖書の規定はユダヤ教のそれで、キリスト教では食物のタブーはないので、キリスト教的な文化の説明にこの箇所を持ち出すのは明白な誤解です。それよりもヨーロッパ独自の歴史的な食文化に根源を求めるべきでしょう。「キリスト教は本質的に肉食をきらう宗教で、肉欲は汚れた肉から生まれるとされた(230ページ)」という記述に至ってはエッ?というしかありません。イエス・キリストだって普通に肉を食べてます。せめて注釈書は横において執筆してほしかったなあと思います。この本を読んで興味の湧いた箇所は、より専門性の高い書籍なり論文なりを探してちゃんと確認する必要がありそうです。

 

動物と人間: 関係史の生物学

動物と人間: 関係史の生物学