幻のミミズ

研究室の3回生Tさんが卒論でハッタミミズをやりたいという。伸ばすと60cm以上にもなる(昔は1m級のもいたらしい)日本最長のミミズで,滋賀と石川にだけ分布する,いわば”幻のミミズ”である(もっとも,生息地にはうじゃうじゃいるらしい)。もちろん純然たる土壌動物で,私も生きたブツは(多分)見たことがなく,私としては卒論指導はちときつい。それに何よりも,ウチの研究室は「水圏生態」という看板なのである。そこで,このミミズで卒論ができるかどうか相談するため,ミミズの専門家である横浜のI先生が調査がてら研究室に来られた。
話を伺ってみると,ハッタミミズは現在準絶滅危惧種としてレッドリストに挙がっており,その関係で分布やDNAの調査(分布の特殊さから見て外来種である可能性もある)をする計画が立ち上がっているとのこと。ハッタミミズの採集記録は滋賀県内でも3箇所ほどしかなく,しかも記録自体が古いので,現在ではどうなっているのかよくわからないらしい。しかし,聞き取り調査ではそれらしいものがかなり広範でみられているので,実際にはもっと沢山生息しているのかもしれない。主要な生息地が水田のあぜだということは聞いていたが,話を聞いてみるとかなり湿田っぽい環境によくみられるらしい。それなら,最近の水田環境の変化とからめて,分布状況や,今後この種とどう付き合っていくかを考えれば(大型のミミズで,畔に穴を掘るので農家には嫌われているそうだ),卒論としてはOKだろう。ただし,データを取るのに十分なミミズの生息地が見つかれば,の話だが,
で,どんな外見なのかというと,「黒くて大きい」ミミズだそうだ。実は,暗灰色のミミズなら私は大学のすぐ近くの田んぼでフィールドワークの授業中に見たことがある(ただし,長さは20cm弱程度の普通サイズ)。I先生にその話をすると「…それかも」と仰る。それなら場所を見ていただこうということになり,I先生を田んぼへご案内した。

今は稲刈りシーズンで,当然田んぼに水はない。しかし,件の田んぼは研究用に深水管理をしていたため,まだ土が湿っぽく,雑草としてはコナギが優占している。I先生,畔を見るなり「ここ,ミミズの糞が多いね」と仰った。たしかに,よく見ると畔の斜面はびっしりとミミズの糞で埋まり,行きがけに見た他の田んぼより圧倒的に多い。今日は土堀り道具を持っていなかったため,ミミズ本体を見ることはなかったが,もし夏に見たあの灰色のミミズがそれならば,ずいぶん調査が楽になる。他所の田んぼではミミズの調査のために畔の土を掘るるわけにはいかないが,ここならできるからだ。
そういうわけで,I先生は研究室にハッタミミズの指名手配書をたくさん置いて行かれた。もし興味のある人は私の部屋に取りに来てください。