「環境研究倫理特論」第14回目は、昨年問題になった「卒論の題目は非表示」問題について、大学の役員を務めるM弁護士に法律専門家の立場から解説していただいた。
関連の法制度(情報公開法、個人情報情報保護法制、著作権法等)の目的や考え方について、初心者向けに易しく説明していただいた。法律の専門家には当然のことなのだろうが、法律の運用というのはあくまでその目的に沿って(かなり柔軟に)解釈されるとのこと。法律とは何のためにあるかという目的が重要で、解釈はその目的に鑑みて柔軟に行われるという法解釈の基本を学ぶことができて、今日の講義は本当に出席してよかった。
個人情報保護法に関していえば、目的は
この法律は、高度情報通信社会の進展に伴い個人情報の利用が著しく拡大していることに鑑み、個人情報の適正な取扱いに関し、基本理念及び政府による基本方針の作成その他の個人情報の保護に関する施策の基本となる事項を定め、国及び地方公共団体の責務等を明らかにするとともに、個人情報を取り扱う事業者の遵守すべき義務等を定めることにより、個人情報の適正かつ効果的な活用が新たな産業の創出並びに活力ある経済社会及び豊かな国民生活の実現に資するものであることその他の個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護することを目的とする
なので、あくまで「事業者が個人情報を取り扱うこと」を前提にしつつ、個人の権利利益の保護(自分に関する情報は自分でコントロールできるようにすること)を行うことが目的である。従って単なるプライバシーの保護でもないし、これを盾に何もかも非公開OKという訳でもない。ただ、個人情報が、本人の同意のもとに本体の目的のみに使用されることを意図した法律という訳である。
その後、ウチの大学では結局、卒論や修論の題目の公開と研究室の保存については当該学生の同意書を取ることで落ち着いたが、本来、これらの公開は大学の研究の質保証の観点から必要なことである(某S細胞事件のときも本人の学位論文が国会図書館で開示されていたことにより、研究捏造が第三者によって白日の下になったことはよく記憶している)。さらに加えて私がもやもやしていたのは、個人情報保護や著作権は著者(学生)の権利を守るための法律であるのに、この問題が出てきたときそのような説明が全くなかったことである。単に「訴えられてトラブルになったら困る」程度の発想で、大学の教育質保証に関わる重要な開示を拒否するというのは、大学としての開示の重要性も、高等教育機関として学生に対して権利教育することも考えていなかったのかな(一言で言えば理念がない)、と情けなく思う。