寄生虫のお味

今、私たちの研究テーマの一つに「寄生虫が生態系の物質循環にどれほど貢献しているか」というのがあります。このテーマは多くの研究者が宿主操作とか食物網の複雑さなど、いろいろなアプローチで研究していますが、私達はもっと単純(?)に「寄生虫は上位捕食者にどれほど食われているのか?」という視点から研究をしています。寄生虫といえども一生他の生物の体内にいるわけではなく、あるステージで外界に出てきます。特に私がずっと研究対象にしてきた吸虫のセルカリアは、宿主の貝から相当に沢山の量が水中に放出されることが知られており、それが他の小型捕食者に食べられることで摂食リンクを形成しているのではないかという指摘は、実はかなり昔からあります。最近の関連論文を探していたところ、セルカリアは捕食者の餌として申し分のないことを示すものがいくつか出ていることがわかりました。

link.springer.com

ヤゴにセルカリアとミジンコを与えた場合、どちらも遜色なく成長した、という論文です。餌としてのセルカリアの質をEFA(必須脂肪酸)で測定しています。数値を見ただけではそれが多いのか少ないのかピンときませんが、少なくとも一般的な動物プランクトン並の栄養はあるようです。ヤゴにとっては結構おいしい餌なのかもしれません。

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これはセルカリアを捕食性のケンミジンコに与えたら他の餌の場合と同様によく育って繁殖した、という論文です。やはり食べ物として不足はないようです。ただ、濾過食者のミジンコに与えた場合はエラが詰まって死んでしまったそうです。実験には尾の長い岐尾セルカリアが使われたので、フニャフニャしすぎていたのでしょうか。

地味な研究ですが、セルカリアを栄養として捕食者がどのくらい成長・繁殖できるのかは寄生虫から上位捕食者へと物質の流れを考えるときに絶対に必要な情報です。これも生物部などの研究テーマとして面白いかもしれません(大学生でもよいですが^^;)。