2017年10月のNATURE, コモチカワツボの殻形態変異に関するエピジェネティクスの発見の論文。私のD論カワニナの殻形態の可塑性がテーマだったので、久しぶりに関心を引き起こされた。
コモチカワツボに限らず、大抵の巻貝は流速や波あたりの大きいところで殻口が相対的に大きくなり、底質への吸着力が上がる。その原因には自然選択もあるかもしれないが、形態可塑性によるところも大きい。著者らは腹足の筋肉でゲノムのメチル化の度合いを調べ、それを殻形態の適応に結びつけているけれど、もっと単純に理解すれば腹足の発達度合いとメチル化の関係だ。私はD論で、1つの河川の比較的小さい空間(蛇行区間内)でも貝殻形態と生息微環境に関連があることを見出し、その関係が維持される理由として貝殻の形態による流水中での移動能力の違いを考えたのだけれど、生息環境によって異なるエピジェネティクスが起こり、その環境で適応的な形態(たとえば腹足の発達度)が後天的に固定されてしまうという可能性もあるわけか。ただ、著者が腹足の発達度で話を止めず、貝殻形態の適応性まで話をつなげているのは蛇足だと思う。
それにつけても、以前関東の某所に確認された、高水温(30度)に適応したコモチカワツボの系統がもし残っていたら進化生態学に面白い研究材料を提供できたかも、と思う。あの個体群は東日本大震災による環境変化で絶滅してしまった。理由は何にせよ、やっかいな外来種がいなくなるのは結構なことなのだが、純粋に生物学的な興味からすると、ちょっとだけ残念なことではあった。