紆余曲折の果てにやっと受理された琵琶湖固有カワニナとゲナのマッチング論文、まだ不備はあれこれあるが、ともかく私が滋賀へ来てから最大の成果と言えるものが出せることになった。琵琶湖の中で多様化している固有カワニナの系統を特異的に利用する寄生虫の系統が存在すること、進化様式はおそらくは共進化ではなく、資源追跡であることを何とか示した。最大の不備は何と言っても、当初は琵琶湖水系に2つのゲナ隠蔽種が分布することがわかっておらず、2種の卵がミックスしたまま実験を行ってしまったことである。それじゃあ実験をやり直せよという意見はご尤もなのだが、2種の寄生虫をきちんと分離して実験するとなると、今までよりもはるかに手間と時間がかかることになり、同じだけのデータ量はおいそれと得られないのだ(サバティカルが欲しい…)。おかげで実験結果から言えることはかなり限定されてしまったのだが,昨年卒業したF君が補足的にやってくれた実験のおかげで,穴の一部分は埋めることができた。F君のデータは追々短報として出すつもりである。
それにしても、琵琶湖の固有カワニナ15種(※この数は少し多すぎるようである。近々、整理される予定)に対して,間違いなく固有種だと示せる寄生虫は今のところたった1種、Genarchopsis gigiだけである。しかも、系統的に近いカワニナ類(ヤマトとハベ,タテヒダとナカセコ等)は、Genarchopsisに対して同じような感受性を示す。どうも、寄生虫(ここでは吸虫)は、貝と同じような速度では進化できず、分化もだいぶゆっくりであるという印象を受ける。生活史が複雑な寄生虫の場合,典型的な共進化は起きにくいのかもしれない。
ところで、今のところ、日本のゲナで確実にbiological speciesと言えるものは4種だが,昨年末に師匠から送られてきたサンプルがどうやら新種になりそうである。寄生虫は今でも国内でばんばん新種が見つかるのだ。