sataniiさんの日記id:satanii:20060331にあった,マンソン住血吸虫Schistosoma mansoniの中間宿主Biomphalaria glabrataの生物学的コントロールのため,カリブ海島嶼に導入されたヌノメカワニナMelanoides tuberculataの論文を見る。これは初めて知ったが,検索してみると,ブラジル国内などでも同様の導入が行われているらしい。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez/query.fcgi?cmd=Retrieve&db=PubMed&list_uids=9587606&dopt=Abstract
http://www.scielo.br/scielo.php?script=sci_arttext&pid=S0074-02762001000100014
http://memorias.ioc.fiocruz.br/983/4714.pdf
Biomphalaria glabrataとマンソン住血吸虫の原産地はアフリカだと考えられているので,南米においてはこれらも外来種である。つまり,外来種のコントロール外来種を使っているケースである。マルティニーク島ではヌノメカワニナの侵入地では大幅にBiomphalariaが減少し,コントロールは「成功した」という評価である。なお,1977年の時点では,住民の罹患率は12%という高率だったのだが,生物学的コントロールと公衆衛生の改善,教育などの結果,現在はほとんど患者は発生していないということである。ただし,ヌノメカワニナは最初からコントロール目的で導入されたのではなく,その少し前から非意図的に侵入していたのを使ったらしい。
住血吸虫症は,セルカリアの含まれている水から経皮感染するので,野外での水浴や農作業で簡単に感染してしまい,中間宿主を撲滅しない限り感染を防ぐのは非常に困難な病気である。特効薬はあるが,感染経路を断たない限り,また感染してしまうし,病状も一般的に重い。どんな方法であれ,この病気を防止できる利益に比べれば,少々の生態学的損失を伴うとしても「成功」だと見なされるだろう。
マルティニーク島での病気の減少に対して,衛生改善と貝の撲滅のどちらが効果があったのか検証して欲しいところであるが,少なくとも現時点では,ヌノメカワニナがいることに対して困った事態は起きていないようである。しかし,ヌノメカワニナがpestとなる可能性はもちろん存在し,著者もが在来種を圧迫する可能性を指摘しているが,ヌノメカワニナとBiomphalaria以外の在来種の貝の密度調査はまだ行われていないようである。さらに,ヌノメカワニナ寄生虫を持っている可能性があるが,住血吸虫と違って,ヒトに対しては第二中間宿主の魚や甲殻類を介して経口感染する種類ばかりだから,魚貝の生食習慣のない人々なら簡単に感染防止できる。ただ,導入地域での在来動物に対する寄生虫の影響は要調査だろう。今まで病原性のなかった寄生虫でも,新しい宿主に出会った場合はどう化けるかわからないからである。
宿主貝をコントロールするに方法は生物学的コントロール以外にもあるので,いきなり競争種を導入するのではなく,別の選択肢も十分検討された上でなければならない。従来の防除方法は,土地利用を変えるなどして宿主の生息環境を消滅させるか,殺貝剤を使用するのが一般的だ。しかし,これはこれで,環境に対して負荷をかけるのに変わりはない。どの方法をとるか,地域の事情に合わせて検討するしかないだろう。