黙らない、黙らせない

 中高生向けに書かれた人権啓発書ですが、「ずるい言葉」を使う立場?にある大人にもぜひ読んでほしい本です。

差別やハラスメントというと、人を傷つけたり、人にイヤな思いをさせる言動と考えられるかもしれませんが、それは差別やハラスメントの一部にすぎません。実際には相手(学生など、多くは若い人)の無知や経験不足につけ込み,相手の権利を踏みにじる行為を「嫌がっていないから」と正当化するハラスメントは非常に多いのです。

「学生(アルバイト、任期付き職員、非常勤職員、助手、ect…)の立場では××はできないよ(←嘘)」

「職場でのトラブルを広めると、あなたの評判が悪くなるよ」

「あなたがそれを広めると『京大動物生態はダメだ』ということになって後輩たちの就職にも響くよ」

…全部言われた経験アリです。

著者は新聞でのインタビューの中で「良心ではなく知識を」と述べていますが、これは「環境研究倫理特論」の方針(道徳教育ではなく知識と技術の教育)と一致します。私も「環境研究倫理特論」の導入部で「あなたのため」という甘言で学生に余計な仕事などを押し付けてくる教員には気をつけろ、と言っています。ハラスメントをしている人というのは自分がそうしているという意識は全くなく、ただ自己正当化をしているだけなのですから(もしかすると私もどこかでしているかもしれませんが)研修などによってきちんと、何が問題なのかを意識化していく必要があります。本書はそのためにはうってつけの一冊です。

実は、今ウチの学部の人権問題研修の資料として「環境研究倫理特論」の講義資料を学部教員に公開中です。人権問題研修というと「××はハラスメントなのでしてはいけません」のような「べからず集」だと思われるかもしれませんが、実は私の資料の中には「効果的なハラスメントのやり方」というのがあります。勿論ハラスメントのお勧めをしているのではなく、ハラスメントをするような人がこっそりやる行為を言語化、顕在化することが目的です。ハラスメントの中には、それだけ取り上げるとハラスメントとは見えないかもしれないが確実に不利益を被るもの、たとえば「学生や若手に自己の権利を教えない(または、嘘の情報を与える)」「外部者に相談することを妨げる」などもあることを例示し、それに対する対策を講じています。これはまずいこと、ヤバいことなのだという意識がまず生まれることが必要です。