自然界のワクチン

数年前に日本生態学会ニュースレターに「Parasitology:  A Conceptual Approach」の書評を書いたのですが、その本の中でとても面白いと思った論文がありましたので、改めて紹介します。なんと、「アリが巣の仲間同士で予防接種をしている」という論文です(2012年)。

https://journals.plos.org/plosbiology/article/file?type=printable&id=10.1371/journal.pbio.1001300

アリが巣の仲間同士でグルーミングをすることにより寄生性のカビに軽度に感染し、それによってカビに対する免疫が活性化してより重篤にカビにやられる可能性を阻止するというものです。アリは無脊椎動物ですからヒトのような記憶細胞による後天免疫はないのですが、それでもある程度の免疫をつけることは可能なようです(ちなみに、この免疫はカビに対してだけ有効で、細菌やウィルスに対しては無効だとか)。動物生態学に免疫学をドッキングさせると、とても面白い研究の展望が開けてくるのではないかと思いました。