今年もお役所仕事にケチをつける模擬パブコメ授業をやりました。題材は2年前に実施された「第四次環境基本計画の進捗状況・今後の課題について(案)」のパブコメバージョンから、河川等集水域の保全に関わる部分です。この題材はタイトルのごとく第四次環境基本計画の進捗状況の報告が大部分を占め、今後の課題については非常に大ざっぱな提言しか書かれていません。進捗状況の報告は事実の報告に過ぎませんから、報告書に挙げられた各種の取組みを実際に知らない限り、コメントはつけにくい材料です。しかし、これは大学の授業の一環ですから、「進捗状況」として列挙された内容が本当に「進捗」なのか、あるいは第四次環境基本計画そのものに不足やあいまいさがあるかどうか、という点についてもコメント可としました。材料はこちら↓にあります。
http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=195130050&Mode=1

  • (P56/1行目)ダムの弾力的管理による流況改善「(前略)…平成24年度は、ダムの弾力的管理および弾力的管理試験を全国の18ダムで実施した」

(学生コメント)ダムの母数がわからない。
(m-urabeコメント)日本のダムの総数は河川法の規定に基づくものだけでざっと3000個あります。その中で弾力的管理が出来るのは多目的ダム・治水ダム・発電ダムあたりだと思いますが、合計は少なくとも2000ぐらいはあるでしょう。弾力的管理そのものはかなり以前から研究されているので、現実に実施されている数が、試験も含めてたったこれだけなのには私も驚きました。しかも、平成23年度には21ダム、24年には18ダムと、実施数は減少傾向。現実にはなかなか導入が進まないという実態が見て取れます。

  • (P56/7行目)第二期水環境改善緊急行動計画(清流ルネッサンスII)「特に水環境の悪化が著しい河川・湖沼等における水質改善や水量確保の観点から…(中略)『清流ルネッサンスII』を策定し、平成13年から総合的な水環境改善事業を重点的に実施してきている」

※ 綾瀬川のBOD75%値 昭和61年 26.7ml/L →平成22年 3.5mg/L
(学生コメント)平成13年からの事業なのになぜ昭和61年との比較なのだ。しかもBODの単位が間違っている。「総合的な水環境改善事業」を謳っているのにデータはBODだけ。
(m-urabeコメント)なんとまあ初歩的な(笑)。

  • (P59/8行目)生物多様性国家戦略の改訂および推進「愛知目標達成のための…(中略)『森・里・川・海のつながりを確保する』を基本戦略の一つに位置付け…」

(学生コメント)ダムを減らしていないではないか。
(m-urabeコメント)河川法でいうクラスの「ダム」では、撤去はまだ1つだけで、建設中・計画中のダムの方がずっと多いですね。

(学生コメント)「取り組みを推進することを記載した」「推進している」と書いてあるが,何を取り組めているのか具体性がなく、結果もない。
(m-urabeコメント)確かに作文が下手すぎます。せめて、「○年度に方針の決定を行い、○年度にはX件、○年度にはY件の事業を実施した。これらの事業により生物多様性が向上したかどうか,現在モニタリング中である」ぐらい具体的に書いてくれないと、「進捗状況」の報告とは言えないんじゃないかな。

  • (P59/18行目)新規環境基準項目の検討

(学生コメント)検討が進められているのはDO、透明度、大腸菌数のみ。河床地形などには触れられていない。
(m-urabeコメント)困ったことですが、もともと公害対策として始まった河川や湖沼の環境基準は、相変わらず水質ばかりが偏重されています。地形や生物多様性保全基準をどうするかは手探りの段階です。

  • (P62/6行目)全国水生生物調査

(学生コメント)参加人数が減っており、効果が見られない。
(m-urabeコメント)学童数の減少などが背景にあるとは思いますが,教育現場でも一頃ほど実施されていないという話を聞きます。現行の水生生物調査には、科学教育上大きな欠陥があるため、減少していることはある意味「ありがたい」ことです。しかし、身近な水環境の調査というのは必要性の高い環境教育なので、適切な教育プログラムを開発普及させる必要があると考えています。

  • (P62/19行目)「こどもホタレンジャー事業」

(学生のコメント)ホタルにこだわらない方がよいのでは?
(m-urabe)私もそう思います。こどもホタレンジャー事業はこれは生物多様性国家戦略にも出てくる環境省の「目玉事業」の一つですが、ホタルの保全を行うべきかどうかの事情は地域ごとに異なり、北海道など、元々ホタルが少ない所もあります。その地域ごとに、必要な保全活動に取り組んでいるかどうかを評価する事業の方がよいと思います。

  • (P71)今後の課題

(学生コメント)人材育成(P62〜)についての記述がない。
(m-urabeコメント)え、まさか「今後の課題となる点はない」とか??

  • (P73/4行目)水質保全対策事業「農地等から閉鎖性水域など公共用水域へ排出される汚濁負荷量の削減を推進し…(中略)浄化水路や曝気施設等の浄化施設整備等を推進。平成6年度の事業開始から、全国で37地区(うち閉鎖性水域関係15地区)を完了して水環境保全に貢献している」

(学生コメント)全国で37地区!?
(m-urabeコメント)1県に1箇所未満ですね。しかも17年で37地区ですから、年に2地区。これで水環境保全に貢献。いやはや。

  • (P74/8行目)健全な内水面生態系復元等推進事業「(前略)平成24年度は、特にカワウ対策として、追払い・駆除数:12万羽を目標に(中略)事業を実施し、当該目標を達成したところ(追払い・駆除数:36万羽)。一方で、カワウ被害は広域・増加傾向にあることから、目標を見直しつつ、更なる事業実施が必要。」

(学生コメント)目標の3倍達成したのに被害が増加している。
(m-urabeコメント)これは目標設定が甘すぎたことを素直に認めなければいけませんね。36万羽の大部分は駆除ではなく追払いだったのでしょう。それなら被害が分散するだけなのは誰にでもわかります。

ちなみに、同じ「第四次環境基本計画の進捗状況」の、最新(今年10月)パブコメ版はこちらです(授業ではうっかり2013年版をダウンロードして配布してしまったので、2年前のデータを見ることになってしまいました)。授業で学生諸君が指摘したのと同じようなパブコメが実際にもあったのか、2015年版では文章の改訂がみられる箇所がいくらかありますが、2013年度版から全く内容に変化のない箇所も。