「生物多様性国家戦略2012」への模擬パブコメ

3年後期ともなれば,環境保全に関して積極的に自分の意見を述べる態度も必要であろうと、河川保全をテーマにした授業で模擬パブコメをやらせてみた(これは成績にも加算する)。現在募集中の案件の中に適当なものがなかったので,今年の夏に公開された「生物多様性国家戦略2012パブコメ版」の「生物多様性保全および持続可能な利用に関する行動計画」の中から、河川・湿地の生態系に関わる部分を抜粋して材料とした。
いくつか,私が特に良い指摘だと思ったコメントを列挙してみよう。なお,パブコメ版から9月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2012-2020」まで,該当部分ではマイナーチェンジのみである。下記のコメントがついた部分はすべて、完成版でもそのまま残っている。
ちなみに,私の事前アドバイスは「この案に書かれていないことは何かを考えよ」。

  • P157: 1.2 河川・湿地などにおける生態系の保全・再生

(学生コメント)国の事業の失敗を改善する項目がない。理想だけで反省点がない。(複数の班から指摘)
(m-urabeコメント)確かに,多自然「型」川づくり等の問題点は指摘されてきたのに,ここには過去の公共事業を反省し,問題点を認めて改善しようとする姿勢が見えません。

  • P158:L6 「エコロジカルネットワーク形成のため,河川を上下流に分断した施設に魚道を整備する取組みをさらに進めるとともに,…」

(学生コメント)その後の継続的なモニタリングについて書かれていない。実施後のケアがない。
(m-urabeコメント)基礎データとなる環境モニタリングの必要性は本戦略の中で繰り返し説かれているが,施策実施後のモニタリングについては確かにほとんど書かれていない(皆無ではないが)。

  • P158: 1.3 ダムの整備などにあたっての環境配慮

(学生コメント)他団体等との協議は書かれていない.
(m-urabeコメント)重大な指摘。

  • P161: 2.1.3 ダム貯水池における水質保全対策

L39「冷水放流に対する施策として,貯水池内の任意の水深から取水できる選択取水設備を設置し、流入水温に近い水温層を選んで下流に放流します。」
(学生コメント)ここにはこう書いてあるが,↓には「表層と下層の水を混合する」と書いてある。どういうことだ。
(m-urabeコメント)…自己矛盾してますね…。

  • P162: L5 (上の項目の続き)「富栄養化対策として、貯水池内から空気を吹き上げ、表層と下層の水を混合させ水温を下げるとともに、水の対流を発生させる曝気循環装置などの設備を設置、運用し、プランクトンの増殖の抑制を図ります。」

(学生コメント)この手法ではプランクトンは増殖するのでは。
(m-urabeコメント)…私もそう思う。底質の無酸素化による栄養塩溶出を防ぐと言いたいのだろうが、曝気でプランクトンの抑制ができるとはとうてい…。

  • P163: 4.3 こどもホタレンジャー

(学生コメント)なぜホタルだけなのか。ホタルは北海道にはあまりいない。地域ごとの活動内容があるはず。
(m-urabeコメント)環境省の皆様,ぜひご検討を。

(学生コメント)どこの団体と何の共同研究をするのだ。(複数の班から指摘)
(m-urabeコメント)…これは草案執筆者の文章力の問題では…。

  • P164: 5.3 自然共生研究センター 

(学生コメント)(今後の)「具体的施策」のはずなのに,今までのことしか書かれていない。
(m-urabeコメント)国交省の皆様,次回はきちんとした施策案をよろしくお願いいたします。
番外:

  • P184: L6  [現状]干潟の再生の割合:約37.8%(平成23年末)

(学生コメント)パーセントではなく,面積で書け。
(m-urabeコメント)ごもっとも。これを読んだだけでは何の37.8%なのかさっぱり分からない。


総評:本当にパブコメとして出したかった。