せっかくなので本文コピペしておきます。
Parasitology: A Conceptual Approach
- 作者: Eric Loker,Bruce Hofkin
- 出版社/メーカー: Garland Science
- 発売日: 2015/03/02
- メディア: Kindle版
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本書は目次のとおり、各章は特定の生物学的概念について寄生虫の分類群とは関係なく記述され、一般読者が寄生虫学のテキストを読む上で大きな障害となる分類群ごとの解説は巻末にGalleryとしてまとめられている。 また本書は「寄生生物の生態と進化」というコンセプトを貫きながら、寄生虫独自の多様で複雑なバイオロジーや、精選された医学研究成果も数多く取り上げており、大変広い範囲をカバーしながらバランスのとれた希有な教科書である。人畜寄生虫は、医学的観点から生理や免疫応答について深く研究されているが、その中には新たな生態学研究の種となりそうな事象も豊富に含まれており、著者はそれらを丁寧に拾い上げている(第一著者の Loker は、免疫系を介した宿主-寄生者関係の専門家である)。面白い例を二、三挙げれば、人体寄生虫である回虫(Ascaris suum)が宿主の構成分子を擬態するペプチドを生産して免疫系の攻撃を逃れていること(P119)は、分子レベルでの擬態の存在を示しているし、社会性 昆虫がコロニーメンバー間の接触により軽度の菌類感染を経験し、それによって強い免疫を獲得する社会性免疫(P121)は、対寄生者戦略としてワクチン接種が自然界にも存在することを暗示し、生物が集団生活をいとなむことの一つの利点を示していると言えよう。本書は寄生生物の生態を知りたい人に役に立つだけではなく、新たな生態学研究のアイデアを探している人にとっても、たくさんのヒントが埋まっている面白い本として読むことができるだろう。さらに、著者 LokerとHofkinは同じ大学で長年共同研究をしている同僚であり、そのためか本書は章ごとに視点や用語、文体が変わることがなく、非常に読みやすい。
残念ながら、日本では現在、一般生物学を勉強する大学生に勧められるまともな寄生虫学の教科書は存在しない。日本で出版されている寄生虫学の教科書は、ほとんどが臨床を担当する医師や獣医師向けであり、診断や治療に重点が置かれている。その一方で、寄生虫の分類や生活史情報については古い間違った情報がそのまま踏襲され、近年の研究の進展が反映されていない場合も少なくない(たとえば石井俊雄著・今井壯一編「改訂獣医寄生虫学・寄生虫病学 1 ・ 2 」(講談社サイエンティフィク、2007)における分類体系を見よ)。寄生虫の生態を研究する学部生および大学院生には、本書を必読書として推薦する。それ以外にも、本書は寄生に関する興味深い生態学的知見を概観するには絶好の良書なので(テキストの分量もお手頃である)、寄生現象にわずかでも関係のある研究をしている方にはぜひ一読を勧めたい。