賞味期限

分類学生態学、近いように見えて,相当に気質の違う学問分野である。何よりも違うのは論文の賞味期限だ。生態学は、新しい研究ほど方法論が厳密になるので、古くて不備のある論文は通常省みられない。今日日,よほど革新的な論文でもない限り、生態学の論文の賞味期限は10年未満だろう。ところが分類学では、いかに古い論文でも、学名が適格である限りは決して無視してはいけない決まりである。それが1757年以降の出版でさえあれば、ラテン語だろうが日本語だろうがカザフスタン語だろうが,記載そのものがかなり雑だろうが、適格名を伴っている限り永遠に論文の価値が失われることはなく、賞味期限は存在しない。こんなことになっているのは無論、学名には先取権の問題があるためだ。生態学が常に新機軸を追いかけ、古いものを捨てていく新規開拓分野だとすれば,分類学は先人の業績を、どんな些細なものでも一つ一つ丁寧に拾い上げる文書学のような趣がある。どちらにハマるかは、多分に研究者の気質によるような気がしてならない。