- 作者: 山内士朗
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2001/09/19
- メディア: 新書
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「あなたは、まだ良い論文を書こうと思っていませんか?
卒論や小論文でのつまづきの石は、そこにあります。
まず、今までの『常識』を捨ててください。
論文に『独創的な考え』『オリジナリティ』など必要ありません.
必要なのは,論文という『形式』にしたがって書くことだけなのです.
この本は、卒論や小論文試験に最小限度の努力で合格したいという、
そんな『要領のいい人』のための実践指南です。」
いやあ、なんで魅力的なツカミでしょう(笑)。要領良く卒論を書きたい人はすぐに読みなさい(笑)。
続きは読みたい人だけどうぞ。
本書は文系の卒論を対象としている(著者の専門は哲学)が,論文のタイトルや章立ての考え方,論文らしい言い回し、略号法などは理系の学生にもそれなりに役立つだろう.少なくとも,指導教員にとっては、毎年賽の河原の如くに繰り返されるスタイルチェックの苦労が省けるだけでもありがたい話である.それがなくなれば,論文の内容そのものに対してもっと高尚なコメントをする余裕も生まれるというものだ。
ところで、見返しには「論文という『形式』にしたがって書くことだけ」と如何にもお気楽なことが書いてあるが,本書を開いて見れば著者の本音はまったく違うことがわかる。私は文系の卒論がどいうものかはあまり知らないが,得てして読んだ本をまとめただけの結果になりがちなことは想像が付く。目的もわからずに集めただけのデータでも「オリジナルです」と開き直れる理系(失礼.でもそういう理系教員は何人か知っている)よりも、オリジナリティを出すのははるかに難しいはずだ。そのため、「どのようにして問題意識を持つか」という研究の根幹にかかわることにかなりのページとエネルギーが割かれており、ここで見返し文は嘘だとわかる。ついでながら、哲学者である著者の発想というかヨタも(論文テーマの没ネタ集など)随所に挟まっているのでこれも面白い。そして、論文形式のハウツー本のような顔をしながら「初心者はえてして技術に走って、技術を使いたがる傾向にあるから、それくらいなら『ヘタウマ』に徹した方がまだよい」とのたまう。私も、投稿論文でなく「卒論」というものに限るなら,この意見に大賛成である。去年も書いたが,教員の出したテーマに沿って,教員から指示されたとおりにデータを取り,教員の指導のままに論文を書いたら、たとえ合格であってもそれは教員本人が論文を書いたのと同じである.つまり「完成はするけど読んではもらえない」卒論だ.多少粗削りであれ,大風呂敷であれ、自分の書きたいことは書けるはずだし,そういう迫力のある卒論を読みたく思うのは私も著者と同じだ。
そういう訳で,本書を手にしてしまった学生には申し訳ないが,このタイトルと見返し文は完全に「釣り」で、論文書きは甘くないということがよーくわかる本である(笑)。ま、卒論を「要領よく」仕上げる王道などないと諦めてください.