到着したので斜め読み。
- 作者: C. R. Kennedy
- 出版社/メーカー: Cambridge University Press
- 発売日: 2006/09/07
- メディア: ハードカバー
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全体の印象としては「よくこれで一冊の本にしたなあ」という感じである。イントロで著者も強調している通り、寄生虫研究者の中でさえも、鉤頭虫の専門家と言える人は少ない(その理由は一に種数が少ない、二に病害性がほとんどない、三に形態が単純で分類が難しい、だそうだ)。そのマイナー生物群の、さらにマイナー分野である生態学である。
章立てとしては生活環、地理的分布、宿主特異性、宿主との相互作用、個体群動態、群集動態、移入と絶滅、生態系変化との関連、と一渡り扱っている。しかし、寄生虫の生態学研究者は、一般的には鉤頭虫だけをターゲットに研究するということはなく、ある宿主、たとえばコイ科魚類についている寄生虫を、吸虫も条虫も線虫もすべて相手にして、その上で分布様式や分散様式を論じることが多い。そこで、この本に引用されているデータは、元の論文ではさまざまな寄生虫について述べられている結果の中から、鉤頭虫に関する部分だけを引っ張り出してきて載せたというものがままあり、元の論文を知っている人間としてはなんとも物足りなく思ってしまう。鉤頭虫だけで一冊の本にするのなら、その本でないと語れない「鉤頭虫ならではの現象」にもっとページを割いてくれたほうがありがたかった。基礎生物学や分類系統学も基本的な情報はきちんと載せてほしいし、生態学では、たとえば宿主操作はもっと取り上げても良かったと思う。「寄生虫が宿主をあやつる」と思っている人は多いと思うが、宿主操作がきちんと実証された研究例は、実はあまり多くはなく、鉤頭虫はその数少ない例の中に含まれる。条虫や吸虫は、産卵数を莫大にしたり無性生殖を行うことで個体数を増やし、リスキーな生活環を乗り切っているが、鉤頭虫は(線虫もだが)寄生虫としては比較的増殖力が低いと考えられる。その代わり、中間宿主の行動操作という、生活環のエレガントな回し方を進化させたのだろう。その辺をもっと掘り下げてもよかったのではないだろうか。
この本を薦めるとすれば、「これから鉤頭虫(限定)の生態の研究を始めるので、手っ取り早く先行研究を知りたいという若い人」だろうが、そんな人いるのか?
もし、「寄生虫の生態学一般」に興味のある人なら、現時点では下記の本がいいかもしれないが、あまりよくまとまった本ではない。
Parasitism: The Diversity and Ecology of Animal Parasites
- 作者: Albert O. Bush,Jacqueline C. Fernández,Gerald W. Esch,J. Richard Seed
- 出版社/メーカー: Cambridge University Press
- 発売日: 2001/03/22
- メディア: ハードカバー
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Evolutionary Ecology of Parasites
- 作者: Robert Poulin
- 出版社/メーカー: Princeton University Press
- 発売日: 2006/12/31
- メディア: ペーパーバック
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