野生は消える

隣の学科の院生H君の学位論文公開審査会。本人が遠隔地に就職しているのでハイブリッド開催となり、オンラインではこのテーマにずっと取り組んできた名誉教授のS先生や歴代卒業生、オンサイトには共同指導教員だったN先生などお久しぶりのメンツが集まった。H君の研究材料は非常に有名な某農業害虫だが、従来の研究の多くは研究施設で継代飼育された虫を使ったものらしい。そこをH君は農地で捕らえた野生虫を使って実験を試みたのだが、飼育虫と同じようには実験がうまく運ばないケースがかなりある。飼育虫は何十世代も重ねるうちに意図せぬ選択圧がかかって野生虫と違う性質を持つようになっている可能性が十分あるが、野生虫の生態に関する情報は意外と少ないらしい(多分近縁種や隠蔽種がごまんといるのだろう)。実験動物に頼ったラボ実験の落とし穴の一つである。