寄生と共生

寄生と共生

寄生と共生

日本の寄生生物がらみの本で,ここまで異分野の人を集めた本はちょっと見たことがない(特に医学とそれ以外).今までは,寄生虫の場合,同じ材料を扱っていながら,所属学会が異なると研究者間交流がほとんどないというヘンな事態になっていた.医学系の研究室では,講座ごとに所属学会が決められているような場合があり,興味のある学会に自由に参加できる雰囲気のないところもあるらしい.私が初めて医学中心の寄生虫学会に出席したとき,明らかに生態学的テーマを取り扱っている研究発表があるのに,その方々の名前は生態学会では聞いたことがなく,その研究デザインから用語まで,生態学と全く違う(たとえば,ムシを数えるときには一隻,二隻…と言う)のに面食らったものだ.そのような垣根を取り払うという意味で,本書の試みは評価できる.
ただ,全体としては,本書はまだ垣根が取れていない.やはりそれぞれの研究者が,生理学,疫学,生態学等々の,自分の興味のあるところをそれぞれ書いているような感じであるし,同じ寄生虫学でも”異分野”の理解になるととたんに手薄になるところも散見される,たとえば,医学寄生虫を専門にしている人にとっては,寄生虫の生活史の研究は過去のものであり,「現在ではほとんど生活環が判明している」と言ってしまいがちだが,野生生物の寄生虫の研究者にとっては「とんでもない!」ということになる.各章はそれぞれに興味深いが,全体を通して読むと,章と章の間の大きな不連続感がどうにもキツイのである.寄生(と共生)は現象面でも分類群でも広範にわたるので,編集者は「宿主と寄生者の相互関係について」とか「病害性の原因について」のように.各著者に共通のテーマを提示した方がよかったんじゃないかなあ,とも思う.ともあれ寄生虫に関しては,異分野の人々が共通の言葉で語るのにはまだ時間がかかるようである.