近頃、屋久島と奄美で新種の植物が立て続けに発見されて、そのニュースが論文のみならず新聞をも賑わしている。新種というのは生物多様性の正当な評価という点で大変重要な発見であることは言うまでもないし、誰にでも分かりやすい業績である。勿論、関係者の間でも称賛の声が上がっている。しかし、そのようなニュースを聞くにつけ、寄生虫研究者としてはため息をついてしまうのだ。何故かといえば.寄生虫は、今でもそこらから新種がゴロゴロ出てくるのである。それで、なかなか記載が間に合わず、私も常時何種類もの要検討種を抱えている。最近、寄生虫分類学のとある有名な先生から「ある野生生物研究者から寄生虫のサンプルを提供してもらっていたのだが、自分がなかなか論文を出さないために絶縁された(!)」という話を聞かされた。この先生は、私の目から見ると十分に仕事の速い方なのだが、なにしろ慢性的に専門家の不足している分野なのであらゆる寄生虫の同定依頼が舞い込み、預かったサンプルの研究が追いつかないというのが実情だろう。というわけで、最近は「これ新種かな?」という寄生虫に巡り会うと、ワクワクドキドキする前に「また仕事が増える…」と憂鬱になってしまうのである。そういう訳で、皆様、寄生虫研究者がなかなか新種記載論文を出せなくても、どうか暖かい目で見てやってください。そして願わくば、自分で見つけた寄生虫は自分で記載できるように、寄生虫学の基礎を勉強していただけると非常に助かります。切実です。