御厩の隅なる飼猿は

環境FWのバス見学2回目。今日は木之本町の湖北農業試験場へ。田畑に現れるイノシシやサルの害を防ぐため,山沿いの放棄田を放牧場にして牛を飼っている所を見学に行く。
現地は高時川沿いの静かな集落で,行ってみたら,以前カワニナを採集に来たことのある場所のすぐ近くであった。屋敷林や寺社林が点在する湖北の集落の風情は私の愛する所であるが,今日訪れた集落も,屋敷のまわりを見事な生け垣や年期の入った石垣で囲った家が多く,獣害に悩んでいるとは思えないほど,田舎でありながらそこはかとなく優美なたたずまいである。
農試の方の説明によると,牛を飼うことのメリットは,獣害を防げるので,今まで放棄されていた畑から収穫が得られるようになったことは無論のこと,帰省した親族も牛を見るのを楽しみにしていたり,牛の世話をするのでお年寄りたちが活気づいたりとか,いろいろあるようだ。
ところで,「牛や羊を飼うと山の動物が寄ってこない」ということは農家の経験則であるようだ。放牧柵の存在のため耕作地に侵入しにくくなるとか,放牧地は見通しがよいので接近しづらいということは無論考えられるが,どうも牛そのものに対する回避傾向もあるようである。生物屋としては「なぜか?」という疑問が大きい。人馴れしたイノシシやサルは,自動車でさえもほとんど恐れない。それなのに,なぜ自動車よりはるかに危険度の劣りそうな牛を回避するのだろうか。
昔は,サルは馬の守り神として厩舎で飼われることが広く行われていた(タイトルは「梁塵秘抄」から)。「柳田国男全集」にも,山の獣が牛などを回避するという話はなかったような気がする。イノシシやサルは本当のところどういう理由で近づかなくなっているのだろうか。