<はじめに>
裁判記録を見てきました。今日の閲覧は正式な情報公開請求を経たものではなく,内部者に許可された閲覧なので,記録のコピーや写真撮影は不可で,メモ取りだけOKでした。以下に,m-urabeのメモを元に概略を記します。なお,元の資料は分厚いファイルに9冊もあり,今日の空き時間になんとか読めたのはそのうち1冊目と2冊目だけ。従って、法律の専門家でもないm-urabeには当然,裁判の全貌を把握することなどできていません。また,ここにはできるだけ客観的な事実経過だけ書くつもりですが,メモに間違いや偏りがないとは言えないので(いや,多分にある),今日の記事をネット上にコピーすることはご遠慮ください。正確な情報をご覧になりたい方は,裁判所に行けば所定の手続きを経て資料閲覧ができますので,そちらをご利用下さい。
これを書くのは、現在少なからずいる任期付き研究職の方に,ご自身の立場について少しでも参考になればとの思いからです。かなり長いので、あとは関心のあるかただけ先にお進みください。<概略と結果>
原告は本学の元任期付き教授(A元教授と書きます)。被告は滋賀県立大学。訴状は2008年9月3日に提出されています。おおまかな内容は下記のとおり(当時の朝日新聞の記事の一部)。
http://university.main.jp/blog6/archives/2008/09/post_519.html
大きな争点は2つあって,1つめは「当初,原則再任と聞かされて赴任したのに,再任されなかった」という点,2つ目は.「再任されなかったのは不正流用の指摘を行ったからだ」という点。他にもありますが、省略します。
全部で23回の口頭弁論を経て、第1審の判決は2012年4月12日。原告の主張は認められず,滋賀県立大学の勝訴。控訴審の判決は2012年9月28日にあり,滋賀県立大学勝訴。上告は2013年8月28日に調書決定(棄却)。結審。
<その中身>
まず争点の1つめですが,当時の募集要綱にあった文句は「再任を妨げない」というものでした。面接時に原則再任であると言われたかどうかが争われましたが,大学の勝訴となっています。証拠として採用されたのは,大学における任期の規定と本人の契約書。大学側は当然「原則再任とはしていない」と言っており,口約束に関しては水掛け論に終わっています。また,原告側は,大学側も当初は再任するつもりであったことの証拠として、任期が終了(2008年7月末日)した後に始まる2008年度後期の授業シラバスにもA元教授の名前が担当者として挙がっており、大学もそれを承認したことを挙げましたが、大学側は「シラバス作成時点で担当者は未定であり,前年度までの担当者であったA元教授の名前を入れてあったに過ぎない」と主張しています。
次に2つめです。この点に関して,被告(本学)は,「教員の選考は公正に審議されており,不正経理の指摘とは何ら関係のない事項である」と主張し,認められています。
この件に関しては、重要事項の時系列を書いておきます。
2005年5月〜2007年6月 A元教授が不正経理に気がつき,大学事務局員や理事,県職員課に数回に渡って上申。
2008年4月9日 A元教授の所属するセンターの上部組織における委員で,A元教授の再任審議が行われ、再任しない(公募を行う)ことに決定。
2008年4月18日,A元教授記者会見。翌日の産経新聞ほか,数紙に取り上げられる。
http://www.usp.ac.jp/japanese/campus/kijiback/kiji200804.html
2008年4月22日,センターにおける不正経理を大学側が公表。
http://www.usp.ac.jp/japanese/news/n_20080422095717.html
2008年4月24日,A元教授,任期の更新はなく,後任は本学人事の原則に従い、公募で決められることを知らされる。A元教授は「この時点で再任審査が行われたことは知らされなかった」と主張するが,まだ資料中の証拠や被告の反論は未確認。ただし,次の公募に応募することは構わないと言われる。
2008年5月1日,公募開始。
2008年6月13日,書面審査に通り,面接。
2008年6月30日,公募に落ちたという知らせを受ける。
2008年7月31日,任期終了。
ちなみに,A元教授は某センター付の教員であるため,人事権は学部教授会ではなく,このセンターの運営にかかわる上部委員会にあるようです。少なくとも環境科学部で教員募集をする場合には,1度目の教授会で選考委員の顔ぶれを決定し、翌月の教授会で公募文面を審議することになっています。従って、公募をすると決めてから公募文が出されるまで,最低丸一ヶ月はかかるのですが,この募集はセンター付教員のそれであるためか,公募決定から公募文の公表までがかなり短くなっています。
ここからはm-urabe個人の感想ですが、本学の人事の「原則公募」というのは,思った以上に厳正に運用されているようです。本学は、昇任もすべて公募によります(内部昇進は存在しません)。公正な公募なのですから、外部者が選考に通り、内部者が落選する可能性ももちろん沢山あるわけです。その場合,パーマネントの職にある人ならクビにはならないでしょうが,それまでと違った部署などに廻される可能性は充分あるでしょう。そのことは考えておくべきかと思います。それから,再任の可能性のある任期付きの職にある方は、具体的にどういう条件を満たせば再任可なのか,必ず書面を要求するべきでしょう。規定の不備などを理由に再任条件を示さない大学の話は信じない方がよいと思います。