胃カメラ記

昨日の人間ドックの予約の時,「胃の検査はバリウム内視鏡のどちらにしますか?」と言われて,思わず「じゃあ内視鏡で」と答えてしまった私である.自分の胃の中をリアルタイムで見る機会なんであまりないだろうから.
ということで,昨日は胃カメラを飲むことに.事前の申込書に「ご希望により全身麻酔をした状態で受けられます」とあったので,なるほど,胃カメラ検査は苦しくて嫌いという人の話もよく聞くから,そういう人は麻酔も希望できるのだな,と思っていた.ところが,内視鏡の受付に行ってみると,こちらが何も言わないうちに「では,こちらの麻酔の同意書に○を付けてください…」と書類を出された.「え,全身麻酔するんですか?」と聞くと,「ほとんどの方が希望されますが」という答え.
ところで,私は卒論で,ハタネズミに手術を施して発信機を取り付けるということをやっていた.ところが,ハタネズミへの麻酔は非常に難しいのである.同じ体重のマウスに十分なはずの麻酔薬を注射しても全然かからないことがよくあり,しかたがないので麻酔薬を増やすと,今度は過剰麻酔のリスクが急上昇する.あとで他の哺乳類研究者や獣医さんから聞いたところによると,野生動物は麻酔に対して全力で抵抗するため,家畜より麻酔が効きにくく(シカに対して,同じ体重のヤギの倍量を注射しても効かないこともあるとか),リスクも高いことは常識らしい.そういう訳で,私は素人なりに麻酔の個人差とかリスクのことはけっこう実感している.外科手術ならともかく,ほんの数分間の嘔吐反射を我慢するのが不快であるという程度の理由で,全身麻酔なんてしちゃっていいものだろうか.それに,胃にチューブを突っ込むのは,魚に投薬したりハムスターにメタセルカリアを飲ませたりするためにやったことがあるので,彼らの気持ちも知ってみたいし,何よりも,麻酔で寝ちゃったら自分の胃のリアル映像が見られない.それが目的で内視鏡を希望したのに。
そういうことで,「多少気持ち悪いのを我慢するのは構いませんから,全身麻酔はなしで」することにした.咽頭部を通す時に苦しいのは仕方がないが,そのあとはけっこう面白い体験だった.「食道通りましたよ」「胃の底の部分ですよ」と言われて,まさにその部分がむずむずするわけである.ほうここが幽門か,と妙な実感を覚えた.一つ残念だったのは,モニターが私の頭上にあったため,私自身はリアル映像を全く見られなかったことである.
検査は4,5分で終了し,幸い,私はそれほど苦痛には感じなかった(はじめて足ツボマッサージをやった時の痛さに比べれば,間違いなく半分以下だ).そのあと,静止画像で検査結果の説明を受けたが,その時に医師が「何か質問はありませんか?」と言うので,「できればリアルタイムで映像が見たかったんですけど」と答えると,「ああ,あらかじめ連絡をいただければ,ベッドの位置を変えておけますけどねえ」という返事だった.次回は絶対にそうしてやろう,と決意した.
追記.今日になってものどの違和感が残って,普通に話すのには支障がないが歌は無理,特に高い音域が痛くて出せない。高い声を出す時には,声帯だけでなく咽頭付近全体の筋肉を使っているわけだ(声帯は気管にあるので,胃カメラが直接そこを通ったわけではない).これも今回実感したことの一つ.