大本営発表

阪大の論文捏造事件に関して,関係者と直接面識のある方々を始め,いろいろな方がblogでコメントしておられる。「調査委員会の発表を待つべき」という真っ当な意見の方もおられるが,今回のように大学が学内(ミウチ)の人間の処分をする場合,事実はどこまで明らかにされるのか,私が今まで見聞きした経験から照らし合わせると,どうも悲観的にならざるを得ない。論文捏造そのものとは離れるが,一つの例をあえて挙げてみたいと思う。あとは読みたい人だけ読んでください。
ある大学でかなり前に,一人の教授が懲戒免職になった。大学側の発表によると,理由は医師免許がないのに医療行為を行ったということ(医師法違反ですな)。これは,勿論当時の新聞を参照すれば出ていることである。
ところで,免職された教授はその後,人事院に不服申し立てを行い,それが認められて免職は取り消しになった。それで,その教授は今でも同じ大学で教鞭をとっている。
公になっているのはこれだけである。これだけでも「?」と思われた方は多いであろう。教授の申し立てが人事院に認められたということは,大学の処分は不適切であったということである。医師法に違反したという事実はないと認められたのか,それとも違反はあったが懲戒免職は重すぎる処分であるということになったのか,そこは定かではない。いずれにせよ,大学はこの教授の名誉を大いに傷つけたことは間違いなく,当然,謝罪すべき事件である。
ところで,事情に詳しい筋によると,当時この教授にからんで学内でハラスメント問題が起きており,学内の一部の教員たちが調査を開始していたということである。このハラスメントに関しては2つの雑誌(ゴシップ誌)が当時取り上げたが,もちろんその信ぴょう性はわからない。
私自身が見たことはこうだ。
偶々その事件の渦中にその大学の構内を歩いていた私は,2,3人の人が大学の掲示板に掲示物を貼っている現場を見た。貼っていたものは,そのハラスメント調査にかかわっていた教員たちが作成した調査経過報告書(主に大学当局とのやり取りの経過に関するもので,事件の内容自体については,文面からは秘されていたように記憶している。当然であろう)。ただし,その上に「なにー,これー,何言ってんのー,わかんなーい」等々の殴り書きが書き加えられている。
貼っていたのは,いずれも若い女性。
明らかに,その大学の学生であると思われた。
教授の懲戒処分とその理由が公表された時,私は正直言って,この理由は事件の真相とはほど遠いのではないかと思った。少なくとも,当時その大学内を駆け巡り,学生を巻き込み,週刊誌ネタまでにもなっていた学内ハラスメントの有無に関するコメントは,どこからも発表されなかった。その後の処分取り消しに際しても,その大学は教授に謝罪したり,逆に裁判に持ち込んだりといったリアクションもなく,黙って教壇復帰を認めているように見える。これも不自然なことである(もっとも,先程調べてみたら,さすがにその後,学会の理事や運営委員にはなっていないらしい)。懲戒処分とその取り消しに関して,当事者の間で何か暗黙の了解があったのだろうかと勘ぐってしまう。
たまたま私が少し状況を知りえたケースについてだけ書いてみたが,おそらく,こんなケースはその大学特有のことではあるまいと思う。何度も言うが,私は大学が自己浄化力を発揮するとは(現状では)とても思えないのだ。だから,不確かな推測による発言はいらないが,真相を知っている人は勇気を出して声を上げてほしい。内部告発は,組織前全体を敵に回しかねないハイリスク行為だが,いくらつらくても,死んでは口がなくなってしまう。