夜の珍客

夕方から大学に行き、深夜に実験室で少し寄生虫のチェックをしてから研究室に戻ってみると、かなり大きな黒い物体が天井をバタバタと飛び回っている。一瞬セミかと思ったが、よくよく見るとコウモリだ。いったいどこから入ってきたのだろう。
なかなかじっくり観察する機会のない生き物だし、しばらく様子を眺めることにした。これが鳥なら、すぐにどこかに止まるか衝突するかするものだが、さすがコウモリ、まったく止まらず当たらずぐるぐると飛び続ける。私の目の前1m以内の所まで全力で飛んできていきなり方向転換したりするので、こちらのほうがびっくりだ。天井の蛍光灯に2回ぶつかったが、多分蛍光灯に集まっている小さい虫を採ろうとしたのだろう(ということにしておく)。ドアは開いているのに出て行く気配もない。
いつまでも頭上旋回させておく訳にもいかないので、一応捕獲を試みることにした。敵はレーダー装備であるから無駄な努力に終わる可能性が大きいとは思ったけれど、できればちゃんと同定もしたかったし、写真だってとりたい。実験室からタモ網を持ち出し、コウモリが私の目の前に突っ込んでくるのを待って網を振った。1回目は空振り、2回目も捕獲できなかったが、確かに網に当たった手ごたえはあった。お、網で掴まえるのも不可能ではなさそうだぞ、と思っていると、コウモリはやっと開いているドアに気がついて廊下へ飛び出して行った。
やれやれと研究室を閉めて帰ろうとすると、廊下のすみの非常扉の前でまたコウモリがぐるぐる旋回している。行ってドアを開けてやったが、どうもすぐには障害物がなくなったことを認識できないようで、ドアの場所まで来るとくるりと方向転換してしまう。それを3回ばかり繰り返したあと、ようやく外へ飛び出して行った。どうもエコロケーションというのは、一度障害物を認知すると、それを解除するのに少し時間がかかるようである。