目黒寄生虫館発行のニュースレター「はらのむし通信」が届いた。今回のよみものは,大分大学医学部の長谷川英男先生が書いている「教養としての寄生虫学:生命科学から環境問題まで」である。非常に面白く,また授業のヒントがたくさん含まれている内容なので,寄生虫に関心のある人のみならず,中学・高校の先生や,生物教育全般に関心のある方はぜひご一読をすすめる。
まずは,長谷川先生が医学部以外の学生を対象に行っておられる教養科目「アソシエーションの生命科学」の内容紹介である。「寄生・共生」をキーワードに,遺伝学から生理学,免疫学,種分化に至る広範な生物学の範囲をカバーしておられるが,取り上げている「ネタ」がこれまた広範だ。「通信」に講義内容が詳しく出ているが,ざっと挙げてみるとニモ,ベラスケス,文豪(森鴎外だな),マリア・カラス,真田一族,井伏鱒二中原中也,etc.これらが寄生・共生とどう絡むのか,想像するだにわくわくする(私は職業柄いくつかは見当が付くが,わからないのもある)。
しかし,長谷川先生は同時に学生による授業評価の結果も書いているのだが,それによると学生はこの授業を「難しい」と感じている,という。「自然科学系の講義と思って受講したのに,絵画や音楽,…,はては古文まで混じっていて,面食らったのかも」しれない,と書かれているが,それで難しいと感じるのだろうか。私が授業内容を見た限りでは,学問の広がりとつながりをこんなに展開している授業はそうそうあるまい,と思うのだが,また,せっかく珍しい寄生虫の標本を持って行っても,「実物は見せないでくれ」という学生すらいるそうだ。先生は「次代の寄生虫研究者を育てるのに,大学に入ってからではもう遅いのかもしれない」と書いておられるが,これは私も同感である。私は,昨年まで教育学部にいて,教育系の学生や,オープンキャンパスに来た中高生に対して,寄生虫の話に食いつかせるのを難しいと感じたことは一度もない。そういうことで,教育大の卒業生諸君,寄生虫少年・少女を育成してくれるよう,期待してますぞ。
長谷川先生がオープンキャンパス用に作られた中学生向け寄生虫学テキストは以下のサイトでご覧になれます。また,「はらのむし通信」を読みたい方は,目黒寄生虫館に直接お問い合わせください(有料)。
http://www.med.oita-u.ac.jp/lepidopteron/wormy1-1.html