叩き台は昨年と同じく生物多様性国家戦略2012パブコメ版。でも,学生から出てきたものは昨年とかなり違っていた。今年は昨年と比べると,言葉の末節に拘泥した「揚げ足取り」的なコメントがやや多かったように思う。原文の日本語が下手糞なのでそれをしたい気持ちはわかるが,施策の本質的な問題点(書かれていないこと=回避していること)にうまく突っ込んでいるコメントはあまり多くなかった。もう少し施策の文章全体を分析的に考えてみてほしい。ちなみに昨年のコメント例はこちら

  • P158「ダム事業の実施にあたっては、計画段階より十分に自然環境へ配慮するように慎重な検討を行うとともに、引き続き、事前の環境調査、環境影響の評価などにより環境保全措置を講じ(中略)また、供用後の調査成果をダム事業の計画や影響評価に反映させるよう努めていきます。(国土交通省)」

(学生コメント)ダムの建設期間は長いので,建設途中のダムについても1,2年に一度は影響評価は行い,その結果に対応すべきではないのか。
(m-urabeコメント)1.2には「自然のレスポンスを確認し,必要に応じてフィードバックを行う順応的な管理を多くの事業で取り入れていきます」と書いてあるのだが,ダムのところでは「事前」と「供用後」だけの調査となっていて,施工途上での順応性というのは考えていないと思われる。ま,どんな公共事業でもそうだが,公金が投入される以上,手を付けたら完成させるのが国の責任だというわけで,着工後の中止や撤回はきわめて困難なのが現状。

  • P159 「(前略)樹林帯制度の活用等によるダム貯水池への流入土砂量の抑制、流入土砂を捕捉するための貯水池直上流への貯砂ダムの設置、貯水池内土砂の人為的排除、排砂管・排砂ゲートといった各種対策の組合せにより、…」

(学生コメント)ダムへの土砂堆積を防ぐために上にダムを造るのか?
(m-urabeコメント)…根本的な解決になっていませんね…。

  • P158「優れた自然環境や社会的環境をもつ地域などの渓流において、自然環境との調和を図り、緑と水辺の空間を確保することによる生活環境の整備、又は、景観・親水性の向上や生態系の回復などを図り、周辺の地域環境にふさわしい良好な渓流環境の再生を目的として、水と緑豊かな渓流砂防事業などを推進します(国土交通省)」

(学生コメント)優れた環境なのに事業をするのか?(複数の班から指摘)
(m-urabeコメント)とにかく作文が下手すぎますね。渓流砂防事業を推進する,ということだけは読み取れますが,あとは具体性なし。

  • P162 「富栄養化対策として、貯水池内から空気を吹き上げ、表層と下層の水を混合させ水温を下げるとともに、水の対流を発生させる曝気循環装置などの設備を設置、運用し、プランクトンの増殖の抑制を図ります。(国土交通省農林水産省)」(複数の班から指摘)

(学生コメント)富栄養化の抑制なのかプランクトンの抑制なのかわからない。
(m-urabeコメント)今年もこの条項にクレームをつけた班が多い。ここを起草した人はどうも初歩的な湖沼学を理解していないようなので,無理もないが。

  • P162 「河川における流水の正常な機能を維持するために必要な流量である正常流量について、河川整備基本方針で設定するとともに、正常流量を確保するための方策として、ダムなどの既存施設の有効活用や水利用の合理化などを検討していきます。(国土交通省)」

(学生コメント)ダムの撤去は考えないのか。
(m-urabeコメント)ごもっとも。

  • P162 「環境用水の導水による水路の清流の復活 (中略)…地域の特徴に応じた清流の再生が期待されています。(国土交通省)」

(学生コメント)期待するんじゃなくてモニタリングをすべき。
(m-urabeコメント)それこそ科学のあるべき姿ですね。

  • P163 「河川を活用した環境教育や自然体験活動:子どもの水辺再発見プロジェクト,市民団体による河川を活用した自然体験活動の推進,こどもホタレンジャー(環境省文部科学省国土交通省)」

(環境教育活動に活発に参加している学生のコメント)各プロジェクトの認知度が低い。初めて聞いた。
(学生コメント)インターネットや携帯端末によるリアルタイムの雨量・河川の水位などの情報を提供を行っていることを,テレビなどでもっと広報すべき。
(m-urabeコメント)環境教育は役所が上で旗振るだけでは駄目なので,地域で実際に環境教育活動をしている人たちと上手に協力できるかどうかが鍵になりそうな気がします。リアルタイム雨量は災害用伝言板サイトなどにリンクしてもよいかも。

  • P164 市民の河川環境への関心を高める機会として、引き続き市民との協働による水生生物調査を実施します。(国土交通省環境省

(学生コメント)水生生物調査における問題点はどう解決するのか。
(m-urabeコメント)…官庁はそこまで理解していないと思う。そして,教育現場では相も変わらず…。