真珠を作る


平湖の淡水真珠養殖組合で,イケチョウガイの外套膜入れ作業を見学させていただいてきました。淡水真珠の場合,一般的にアコヤガイと違って核入れはせず(技術的には可能だそう),外套膜片のみを移植して不定形の無核真珠をつくります。

今日は,9月にマーキングした母貝たちにも外套膜入れをします。彫刻ペンで彫った番号はしっかり残っていました。

外套膜片採取用の貝(”細胞貝”と呼ばれていました)から外套膜を切除します。デモンストレーションは,現在同地でただ一人イケチョウ養殖を継続中のS井さん。

外套膜組織先端部の殻皮分泌組織や表皮を取り除き、真珠層の分泌組織だけにします。

カミソリで一定の大きさに切りそろえます。

移植用の外套膜片の出来上がり。

移植の練習用に殻を開いたイケチョウガイ。上手にやれば左右の外套膜に20片ずつぐらい移植できるそうです。

外套膜の内側に小さなメスで切り込みを入れ、その中に外套膜片を埋め込んでいきます。このあと,手術済みの貝を湖につるして2〜3年養殖すれば出来上がりです。

実際には生きている貝での作業なので、わずかにこじ開けた殻の隙間からメスと針を入れて移植することになります。お話では、「昔の貝は外套膜が殻から浮き上がるので手術がしやすく,小さい貝にも移植できたが,今の貝は外套膜が殻に張り付いているのでやりにくい(外套膜を突き破ってしまう危険性が高い)」ということでした。貝類学的に言うと「外套空間の広さが違う」ということでしょうか。おそらくイケチョウと,現在の「改良母貝」の片親であるヒレイケチョウの違いだと思いますが、何の差に由来するものかよくわかりません。外套膜には分泌細胞があって殻の裏に真珠層をつくりますから,ヒレイケチョウの方が分泌細胞が多いのかもしれないとも思ってあれこれ尋ねてみると,昔から”細胞貝”には改良母貝の方が適していると言われているそうです。ただし,殻の厚さを尋ねると,「今の貝の方が厚い」「昔の方が厚かった」と,人によってまちまち。「分泌細胞数の違い仮説」が立てられるのかどうかまだわかりませんが,こういう手がかりからイケチョウとヒレイケチョウの生態の違いが分かれば、何がしか養殖技術の役に立つこともあるかもしれません。

今日は草津市の橋川市長も視察に来ていました.市長も移植にチャレンジしていましたが,組合員さんの指導はなかなか厳しいです。そりゃ,メスでうっかり軟体をブスッとやってしまおうものなら貝は御陀仏ですからね。

地元の中学生もチャレンジです。S井さんのお話では,目的の形状の真珠を作るには、核の有無の他,移植時の外套膜片の折り方?など様々なテクニックがあるらしいです。そういう話を伺うと,今日では昔のように大量の真珠を生産することはできないかもしれませんが(どうしたって湖に汚濁負荷がかかるはず),真珠生産そのものを一つの工芸技術として受け継いでいくことは可能かもしれないな,と思いました。陶芸などのように,いろいろな色や形の真珠を自由に作れる「真珠工芸家」がいてもおかしくないですね。
それにしても真珠養殖というのは,完成品はもとより,こまやかな移植技術や,その後数年間にわたって貝を育てる過程など,非常に女性の感性に訴えるものがあります。アクセサリーデザイナーを志す若い女性の中などに,貝の養殖,目的に適った真珠の生産から製品のデザイン・販売まで一貫して手がける人が現れそうな気がしますが、どうでしょうか。