ビワコオオナマズからとれた2種の寄生虫ナマズ腹口吸虫と尾崎腹口吸虫(多分)の計測と図の作成。特に前者は記載論文が相当ラフなので、この属としては初の観察になる形質がかなりあるため、複数の標本を見比べて慎重に作業を進める。
さて、腹口吸虫の仲間はずいぶん種数が多いのだが、まだ分子系統が判明していないでの分類は混乱している。外見はかなりバラエティに富んでいて、細長かったり丸かったり、吸盤に摩訶不思議な突起がいくつもついていたり、精巣が体の前端近くにあったり横にあったり後ろにあったり、卵黄腺が左右にずらりと並んでいたり2つの小さな塊になっていたり、分類形質はいろいろありそうな気がするのだが、よく観察してみると、器官の数や生殖器官の管のつながり方など、基本構造はほとんど差がない。吸虫の仲間は、生殖腺の数や生殖器官の管の分岐位置などが重要な分類形質なのだが、腹口吸虫はその変異がほとんどない。つまり、トポロジー的にはどの種もほとんど同じで、あとは部分的に引き伸ばしたりねじ曲げたりすれば別の種の形態になってしまう。ナマズ腹口吸虫と尾崎腹口吸虫も、外見的にはずいぶん異なる2種類だが、細かいところをしげしげと観察していると、だんだんどこが違うのか判らなくなってくる。一応、卵巣と精巣の相対的な位置関係から、両者は別属とされているのだが、あまり根拠はなさそうだ。
もっとも、腹口吸虫類そのものが、トポロジー的には変わり種のムシである。体の前端に口があり、前半部のどこかに生殖孔が開口している通常の吸虫とは異なり、名前のごとく胴体の真ん中に口が開き、後端らしきところに生殖孔が開いている。臓器が一揃いありさえすれば、体のどこが前だとか後ろだとか、あまり気にしていないムシらしい。妙なヤツである。