先週から,大学の教養の時に買った超有名な哲学者の著書が気になってなんとなく読み始めた。文庫だが,難解さに音を上げて約20年間本棚の肥やしになっていた本である。
学生時代は「哲学者の本って難しいなあ。自分に教養がないから読めないんだろうなあ」と素直に思っていたのだが,今改めて読んでみると,難解というより悪文である。いくら修辞と引用に彩られた哲学書でも,翻訳者の手を介すれば普通は原著より平易になるものである。それが,日本語として見られる文になっていない。句読点の位置すらおかしい。生物の名前も結構出てくるのだが,原語を安直にカタカナ書きに写しているだけで,専門家に問い合わせた形跡もない。大体,他の哲学書や故事の引用がたくさんありそうな文なのに訳注さえないし,ひどいところは「訳者はこの故事を知っているのか?」と疑いたくなるほど字面だけの訳と思える箇所すらある。AMAZONの書評を探してみたら,やはり惨憺たる評価(全員1つ星か2つ星)で,誤訳も多いらしい。ま,読めなかったのは自分の教養不足ではなかったわけですっきりした。早めに別訳を手に入れることにしよう。
しかし,こういう悪訳本や悪抄本を出回らせてしまうのは,すばらしい原著から遠ざかってしまう人を沢山つくってしまうのだから,有害極まる話である。