全国高校総合文化祭を見に三重まで出かけた。貝類学会の常連であるK高校生物部が出場するうえ、県内のいくつかの高校のプレゼンもあるので、高校の生物の先生と近づきになる良いチャンスである。もっとも、会場は三重県全土に分散しており、理科関連の発表会場は熊野市。隣の県とは言え、遠かった。
出場校はみなそれぞれの県からの推薦を受けてきた高校ばかりなので、発表は相当に見応えがあった。県内のZ高校はカワヨシとトウヨシの分布の違いを滋賀県の地史と関連づけて考察していて、まだ推測の部分が多いが目の付け所はとてもよい。三重県のS高校は某天然記念物魚類の新分布地の報告で、彼らがその発見報告をした翌日にK大とM大の合同チームが調査に入ったというから、高校様々である。兵庫県のF高校はモンカゲロウの生活史に関する研究だったが、6000個体あまりのカゲロウを計測した結果、翅の相対長にかなりの変異があり、それによって遡上飛行に参加する程度が違うらしいことがわかったという。こんな話は水生昆虫研究者からも聞いたことがなかったので、とても驚き、感心した。もう一つ面白いなと思ったのは、水生昆虫の遡上飛行は水面の光反射をガイドに行われることは既に知られているが、上流と下流の方向はどうして判るのかという話である。モンカゲロウは日没直後の薄明時によく飛行するが、そのように直射日光がなく散乱光で物が見えている状態の時、川岸から上流と下流を眺めると、上流側は白く光って見えるが下流側は光らないのだそうだ(ちなみに川は南北方向に流れている由)。この現象は、川の方向や太陽の角度がある条件の時にだけ見られるのだろうか、それとももっと一般的な話なのだろうか。今度、物理に詳しい人に聞いてみよう。
最後まで発表を聞いて痛感したのは、先入観を持たずに生物を見ることの重要性である。魚の新産地は研究者が「いないだろう」と判断して調査をせずにいた地域からの発見であるし、カゲロウの分散変異も、若齢幼虫が川の全流程にまんべんなく見られることに気がついた(遡上飛行を教科書通りに解釈すれば、上流に行くほど若齢幼虫が多いはずである)ことに端を発しての発見である。私ほどの年になると、おそらくもうかなり頭が硬化しているのだろうが、まっさらな目で生物を見るよう、もう一度肝に銘じたいと思う。