今更級

わが里なりけるいへに、おたくなる姪のありて、卯月はじめて勤めに参らんずるを、何ぞよき祝ひがなと案じ、ゆかしきものはありやと尋ぬるに、はかばかしくいらへもせざりき。困じてかの母に問ふに、「彼、年頃某大河どらまにいたく興じるままに、れんたるびでお店に通ふこと数知れず、つひにはぼっくすDVDをなむゆかしがれど、汝は聞き入れまじと思ふにや」といふ。あなをこの女の子や、いま少しまめまめしきを願へよかし、と舌打ちて、家にかへりて納戸をつくづく眺むるに、かのDVD全巻、ぼっくすに入りながら塵に埋もれてありけり。かくありて捨てむにはごみ集積場の費えなるべし、いましばし永らへさせんこそ、地球にも優しからめと、塵をはらひてわが里へ持ち行き、われは見終へしゆゑ用なしとて彼に与ふれば、彼、いみじううち笑みて、けふは終日これをみんとて奥へ走り入りたり。さておたくもほどほどにせよとのみ思ひて罷りけるが、げにも血は争へぬものぞかし。