寄生虫ひとり哮える

今朝メーラーを開いたら,またデスクワークの種が2つも送り付けられていた。今月はデスクワーク強化月間決定。
講義の準備で,この前の生態学会シンポの資料をまた引っ張り出す。移入種問題を扱う時,寄生虫屋の私は相当苦しい立場に置かれる。なぜなら,「移入種を排除するのは在来種の多様性を守るため」という錦の御旗が振れないからだ。もちろん,移入種問題においては寄生虫の移入種もクローズアップされていることはかなりの方がご存知だろうが,それは新たな病原体の渡来を問題視しているのであって,断じて在来寄生虫の多様性を守るためではない。在来種であろうと外来種であろうと,病原体である寄生虫とその媒介者は駆除され続けてきた。絶滅に追い込むことが推奨され,決して保護されることのなかった生物,それが寄生虫である。
先日,K尾君からややショックな話を聞いた。彼は広島県の出身である。広島は,山梨・福岡と並んでかつて日本住血吸虫症の流行地であった。無論今は病気はなくなり,中間宿主のカタヤマガイは広島県では絶滅している。ところが,広島版レッドデータブックには,カタヤマガイが絶滅種として載っていないというのである。事実その通りだとしたら「かつては生息していた」という情報さえが抹殺されているということになる。レッドデータブックのような学術文献でさえ,「いてもよい生物」と「いない方がいい生物」を無言のうちに分別しているのだとしたら,いったい私たちが保全しようとしているのは何なのだろう。