塩素とセルカリアの妙な関係

昨日、近所のカラオケ店が厚労省の注意喚起に従って次亜塩素酸水の噴霧を中止したらしいことを書きました。塩素系消毒液としてもっともよく使われるのは扱いやすい次亜塩素酸ナトリウムですが、過去にこれが自由生活期の寄生虫の生存に影響を与えるかどうか調べたことがあります。よく知られているように塩素は水生生物にとって有害で、魚を水道水で飼うときにはカルキ抜きが必要です。また、水道水や下水処理水の殺菌に使われるため、環境中に大量に放出されています。魚、甲殻類、藻類、バクテリア等への毒性はたくさんのデータがありますが、寄生虫に関しては、病害生のある人体寄生虫の殺虫効果を調べたもの以外、あまり研究例がないのでやってみたという訳です。寄生虫も水生生態系の一員ですから、場合によっては保全が必要です。

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このときに得られた結果は、まずセルカリアは次亜塩素酸ナトリウムに対してかなり強く、水道水の残留塩素(結合残留塩素で0.4mg/L以上)の100倍ぐらいの濃度でもほとんど死なないということがわかりました。そして妙なことに、水道水の10〜100倍くらいの塩素濃度では、コントロールよりもセルカリアが活発に動き、生存率も若干上がるという変な結果でした。このような結果になった理由はコントロールの設定が適切ではない、セルカリアの生死という判定方法がよくない(動いているセルカリアが感染力を保持しているとは限らない)等、いくつか考えられます。今年の卒論生の一人が環境毒性に興味があるということなので、久しぶりにこの結果の追試と再考をやってみることにしました。