理学部に貢献してほしい

去年、「環境研究倫理特論」で特別講義をしていただいた朝日新聞社の長野さんが、今度はNMRパイプテクターを取り上げた記事を書かれました。

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この装置の原理は高校程度の初等物理の知識で十分におかしいと理解できるものなのですが、大々的な広告を打つ手に出ているせいか、購入してしまっているビルやマンションが既にかなりあるそうです。商品の性質上、効果の有無がはっきりわかるようになるのは数十年後なので、その時までに業者が逃げてしまっていたらおそらく損害を取り返すことは困難になります。

一昨日の国立26大学理学部長会議で、各大学の地域貢献や地域教育への取り組みの実例を聞きましたが、やはり産学連携事業や高大連携の話ばかりで、この新聞記事のように消費者を守る活動ですとか、消費者がいんちき話の被害に合わないように教育する活動はまったく行われていないようでした。一部の大学教員や退職教員が、時には身銭を切って実験をしたりスラップ裁判で戦ったりしながら対応しているのが現状です。産学連携事業や高大連携は、受託金を受け取ったり受験者が増える等大学にとってもオイシイ話ですが、消費者保護や義務教育レベルの(でも社会で生活するためには大切な)普及教育は、大学にとってはコストが大きいのに見返りがありませんから、推進に消極的なわけです。しかし、初歩的ないんちき話によって社会が被る被害はとても大きいので、理学部教員や理学の高等教育を受けた社会人(長野記者も理学研究科の出身です)がこのような事例にどんどんコメントしていくことはとても重要な役割です。ですから、大学の理系学部が消費者保護のための講演や出版を行ったり、それに携わる人材を輩出したりすることも、地域貢献の項目としてぜひ積極的に評価してほしいと思います。小中学校の義務教育課程における理科教育を専門家としてサポートすることも、とても大きな貢献であると思います。国立大学理学部長の皆様、いかがでしょうか。