例のY川の河川改修について,県の担当者の方から設計図と設計方針に関する資料をいただきました。それに対する私の返信。

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資料をどうもありがとうございました。設計情況はよくわかりました。
ただ、私が思いますに,生物多様性に配慮するために欠けている視点が少なくとも2つあると思います(もしかすると、もっとあるかもしれません)。

(1)魚道とは、魚が通れない障害物(堰など)につくるものであり、河床全体に作るものではない。
魚道とは、魚が通れるように設計された構造物ですが,そこに魚が日常的に住み着けるような構造(隠れ場所や休み場所、産卵場所が必要)にはなっていません。ですから、魚がどうしても通れない障害物に魚道を設置することは有効ですが,もともと魚の棲み場所であった自然河川を全面魚道化することは、魚の棲み場所が減少することを意味します。ちょうど、住宅だったところを壊して道路に変えてしまうようなものです。自然河川では,魚道ではなく、魚の棲み場所の創出をするべきです。

(2)河床の洗掘を防ぐための構造は、必要最小限にするべき。
擁壁を保護するために洗掘を防ぐ必要があるのはわかります。しかし、洗掘されてブロックの下にできた穴は,魚にとっては格好の隠れ場所になります。また、魚のエサになる水生昆虫は主に石の下面や砂の中をすみかとするため,ブロックの河床になると個体数が大幅に減少します。ですから、河床の床固めは必要最小限にするべきで、洗掘されても構わないところはできるだけ残すように配慮しなければなりません。Y川に関して言えば,今回の改修現場で,河床全面を洗掘から保護する必要があったとは思えません。擁壁の下だけ根固めし、流心部は自然河床のまま残すことができたのではないでしょうか。

公共事業としての河川改修を発注する時、漠然と「生物多様性に配慮すること」のような条件を付けただけでは,業者にその意図は伝わりません。前回ご提案しましたように、業者に自然再生士などの資格を求めることも一つの案ですが、それが難しいならば,発注条件を作成する時に、自然再生の専門家の意見を聞き、できるだけ具体的な条件にするべきでしょう。たとえば「床固めは最小限度とし、必要な場所にはふとん籠など、間隙のできるような資材を用いること」とか、「擁壁は在来植物を用いて緑化すること」などと提示する必要があると思います。あと、設計図が出てきた段階で,専門家の意見を聞いて修正ができるとなおよろしいと思います。可能ならば事業主、業者,専門家の三者が同席して設計の練り直しができるとよろしいですね。もしそのような場が設けられるのであれば,手弁当でも出向きます。(本当はアセスメントをするのが理想ですが,中小の河川改修では予算がありませんね)。