Hemiuridaeと呼ばれる吸虫のセルカリアは,たいてい射出管という器官を持っている(この写真では,Cercaria introvertaの上から右に飛び出している管がそれ)。これは中空の管で,セルカリアが第二中間宿主の節足動物に食われた後,宿主の消化管の中で発射され,腸壁に突き刺さる。そして,寄生虫の本体はその管を通って,宿主の血体腔に「注射」されるのである。
今までは,宿主の消化管の中でないと射出管は発射されないものだと思っていたが,先日Yurlovaさんに読んでもらったロシア語文献によると,Cercaria introvertaは,胞から出ている繊維がケンミジンコの体表に触れると,それだけで射出管を発射して,体表から本体を注入するらしい。これは,寄生虫の感染の仕方としてはかなりえぐい部類になるが,一度見てみたいものだ。それにしても,この飾りのような繊維に,宿主感知などという役割があろうとは。
と思っていたら,この「注射器式感染」は,セルカリアの特権ではないらしい。Notocotylus属の吸虫(これ)は,なんと卵の中に注射器が仕込まれていて,卵が第一中間宿主の貝に食われると,宿主の胃の中で卵が孵化すると同時に注射器が発射され,スポロシストが貝の体腔に注入される(Murrills et al, 1985)。
そういえば,フクロムシにもケントロゴン幼生なんていう注射器ステージがあったっけ。この様式はいろいろな分類群でちょくちょく進化するのかもしれない。