面白い論文を見つけた。
Jones et al. (2004) Cleaner fish become hosts: a novel form of parasite transmission
Coral Reefs 23: 521-529
ホンソメワケベラなどの「掃除魚」が,他の魚(クライアント)の体表にいる寄生虫を食っているのはよく知られている。そして,こいつらが時々,寄生虫ならぬクライアント自身の体の一部をかじり,クライアントから追っ払われることがあるのも,行動学を勉強した人はたいてい知っているだろう。これは,その清掃?行動を利用して,ホンソメワケベラに寄生してしまう寄生虫(吸虫)がいるという話。この寄生虫はクライアントとなる魚類の筋肉中にメタセルカリアをつくる。そして,成虫はホンソメワケベラの消化管から見つかるのだ。
この話はいろいろな要素が絡んでいて,相当に複雑である。掃除魚がクライアントの体をかじるという行動の解釈であるが,従来言われていたように,寄生虫を取ってもらおうと寄ってきたクライアントを「騙して」かじるという解釈の他に,組織中に埋もれているメタセルカリアを見つけて,それを食べようとしているのだという解釈も成り立つようになる。また,後者だとすると,寄生虫はホンソメワケベラの餌の探索イメージに乗って効率良くその消化管に移行し,感染してしまう(つまり寄生虫が掃除魚を騙している)ことになる。寄生虫はクライアントを騙す掃除魚の摂食行動に乗ってちゃっかり移動しているのか,それとも自ら餌のフリをして掃除魚を騙し,その結果,掃除魚が「クライアントを騙している」との汚名を着せられたのか,なんともややこしい話である。しかし,もしこの寄生虫が掃除魚にとってコストのかかるものであれば,少なくとも齧られたクライアント魚にとっては,痛い思いをさせたヤツに一矢報いたことになるのは間違いない。